こんにちわ。
大阪市、大阪北部(摂津市、吹田市、茨木市、高槻市など)で行政書士をしております井田でございます。

今日は民法改正法案の一部を紹介したいと思います。

債権法、契約の解除についてです。

民法第541条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

上は現行の民法の規定ですがこれについての改正案が

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行が当該契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

以上の様に但し書きが追加となります。

民法が契約の解除を認めている趣旨として相手側Bが債務の履行をしない場合に契約の効力が継続したままであれば債権者Aもその効力に拘束されたままになってしまいます。
(Aも債務を履行する義務が継続したままになってしまいます。)
それではBの権利が不安定なままになってしまうので救済しましょうというのが本来の趣旨なのですが、
Bが本来の債務は履行しているのだけれど付随する料金の一部の支払いしなかった等、理由が軽微な時まで解除を認めてしまうのは逆に取引の安定を害することとなる為これは認めないという考え方です。

ただ改正とはいっても判例法理の一部が明文化ものであり、当然ですが各事例にあわせた判断は裁判所に委ねられるものと思われます。

参考判例:

最高裁昭和36年11月21日判決 民集15巻10号2507頁
当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。

最高裁昭和42年4月6日判決 民集21巻3号533頁棄却判決
→民集第21巻3号533頁”畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。(原審事件番号 昭和36(ネ)524)”

最高裁昭和43年2月23日判決 民集22巻2号281頁
土地の売買において
“所有権移転登記手続は代金完済と同時にすること、それまで買主は契約の目的物である土地の上に建物その他の工作物を築造しないこと”
という特別の約款がつけ要素たる債務にはいり、これが不履行を理由として売主は売買契約を解除することができると解する
のが相当である。上告を棄却

最高裁昭和51年12月20日判決 民集30巻11号1064頁
宅地に転用するための農地の売買契約につき、買主が農地法五条による許可申請
手続に協力しない場合であつても、同人が右売買代金の支払をすでに完了している
ときは、特段の事情のないかぎり、売主は買主が右協力をしないことを理由に売買
契約を解除することはできないものというべきである。
所論引用の判例(当小法廷昭和42年4月6日判決 民集21巻3号533頁)は、事案を異にし、本件に適切てない。

最高裁平成8年11月12日判決 民集50巻10号2673頁
付属スポーツ施設の会員権が付いたリゾート分譲マンションを購入したAが購入の検討材料となる広告等の資料には屋内プールが付属するスポーツ施設との謳い文句があるにも関わらずプールの建設が大幅に遅れた事によりAは売買契約の解除を申し立てた問題において
単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部であり、またマンション購入と会員権は不可分での契約との決まりがある事も考慮し、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。”

最高裁平成11年11月30日判決 集民第195号593頁
ゴルフ場経営会社がゴルフ場建設を行っていたが資金都合によりクラブハウスを第一期、併設高級ホテルを第二期工事として進めていた。一方ゴルフ場経営会社の作成した会員募集パンフレットには高級ホテルが併設される事を強く謳い募集を行っていた。
Aはゴルフ場正会員入会契約を締結したが併設の高級ホテルが設置されていないことから契約解除を申立てた。その後も二期工事は基礎工事の後具体的計画がないままとなっている。原審(東京高等裁判所 平成8(ネ)3180 )では件附帯施設が整備されていないことを理由に上告人が本件入会契約を解除することは許されない。との判断となったがAが契約に至る動機としてパンフレットにある記載事項を重視した可能性は十分にあるとし、また現状ではパンフレットの内容に到底及ばず、”パンフレットに記載されたホテル等の施設を設置して会員の利用に供することがゴルフクラブ入会契約の債務の重要な部分を構成するか否かを判断するに当たり右事実関係を考慮することなく、ゴルフ場経営会社の債務不履行を理由とする会員からの解除を認めなかった原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。”と差し戻し判決となった。

次回は 無催告解除(民法第542条・第543条関係)について